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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.01.08:第23回 私の回顧録

営業の前準備
〜段取りで決まる〜

みなさん、こんにちは。
「糸偏コラム」をお読みいただき、ありがとうございます。

前回(第22回)では、生地問屋に入社して間もない頃の社内業務についてお話ししました。 反物を切り、束ね、生地の重さやクセを身体で覚えながら、少しずつ“生地屋の一員”になっていく時間。 その延長線上に、いよいよ外の世界――営業の現場が待っていました。

今回は、その営業に出る前の「前準備」に焦点を当ててお話しします。派手さはありませんが、営業という仕事の土台を支えていた、とても大切な工程です。

段取りで決まる

◾️ 営業とは、まず段取りである

「営業」と聞くと、話術や提案力、交渉のうまさが注目されがちです。 ですが、実際に現場に出てみると、それ以前の“準備”がどれだけ大切かを思い知らされます。

どの地域を回るのか。 どのお客様に、何を持って行くのか。 移動時間はどれくらいかかるのか。

この段取りが甘いと、どんなに良い商品を持っていても成果にはつながりません。逆に言えば、準備が整っていれば、営業の半分は終わっている――そんな感覚でした。


◾️ 私の担当地域という名の日本縦断

私が任された営業エリアは、神奈川県・群馬県・新潟県・青森県、そして北海道の道北エリア。 今あらためて並べてみても、「よくやってたな」と思う広さです。

群馬県は地元ということもあり、土地勘がありましたが、それ以外はほぼ白紙状態。 地図を見て、走って、迷って、覚える。 ナビが今ほど賢くない時代ですから、道を覚えることも仕事のうちでした。

地域が違えば、洋服への考え方も違います。 雪国では防寒性が第一。 都市部では色やトレンドが重視される。

同じ生地でも、場所が変われば評価も変わる。その違いを肌で感じることが、営業としての感覚を育ててくれました。

担当地域

◾️ ワゴン車一台、生地満載

私の営業スタイルは、いわゆる「キャラバン方式」。 ワゴン車の荷台に、生地を山のように積み込み、各地を回っていくスタイルです。

まさに移動式の生地屋。 段ボール、着分、サンプル……。 車の中は常に布の匂いがしていました。

お客様のところで生地を広げ、触ってもらい、その反応を見る。 「これ、いいわね」 その一言のために、何時間も準備をするわけです。


◾️ アポイント取りは、静かな戦い

営業準備で欠かせないのが、アポイントです。 電話帳と顧客リストを前に、ひたすら電話をかける。

「◯月◯日、ご都合いかがでしょうか?」

断られることも多く、留守番電話も多い。 それでも粘り強く続けるしかありません。

スケジュール帳を見ながら、地図とにらめっこ。 このお客様と次のお客様の距離は?移動時間は?

頭の中では、常にルートのシミュレーションが行われていました。

アポイント取り

◾️ 日曜営業という葛藤

遠方を回ると、どうしても日曜をどうするかが問題になります。

休むか、動くか。

家族の時間も大切。 でも、予定を詰めないと回りきれない。

そんな葛藤を抱えながら、日曜の予定を入れるかどうか、何度も悩みました。 このあたりも、営業という仕事のリアルな一面です。


◾️ 商品準備という名の仕込み

アポイントが決まったら、次は商品準備です。

持って行くのは「着分」。 1.5mから4.0mほどにカットした生地を、10着分、20着分とまとめていきます。

この作業が、地味ですがとても重要。

お客様の好みを思い浮かべながら、 「この人にはこれ」 「あの先生なら、この色」 と頭の中で組み立てていきます。


◾️ 生地紐に込められた現場の知恵

着分を束ねるのに使うのが、生地紐。 裁断時に出た余り布を裂いて作ったものです。

今で言うなら、完全にエコ。 当時はそんな言葉もありませんでしたが、現場には自然と無駄を出さない工夫がありました。


◾️ 積み込みは、もう一つの仕事

生地を車に積み込むときも、順番があります。

次に訪問するお客様の分を取り出しやすく。 重たいものは下に。

まるでパズルのように、頭と身体を使う作業でした。


◾️ 段取りが、心の余裕をつくる

こうした準備が整っていると、現場での気持ちがまったく違います。

・ 焦らない。
・ 慌てない。

その余裕が、お客様との会話にも表れる。 準備は、単なる作業ではなく、心の余白をつくる時間でもありました。


◾️ 先輩との同行営業

最初は、もちろん一人ではありません。 先輩に同行し、営業の段取りを学びました。

埼玉、新潟・上越。 車中での会話、訪問先での立ち居振る舞い。

「営業は、人だぞ」

何気ない先輩の一言が、今でも心に残っています。


◾️ 忘れられない出会い

上越で出会ったあるお客様は、後に私の大切な顧客になりました。

最初は、ただ先輩の横に立っていただけ。 それでも、その空気感、人との距離感を肌で感じることができました。


◾️ 段取りは、信頼への第一歩

営業の前準備とは、単なる効率化ではありません。

相手を思い、考え、想像すること。

その積み重ねが、信頼につながっていく。


◾️ おわりに

派手さはなくても、営業の前準備は確実に私を育ててくれました。

次回は、同行営業で学んだこと、そして一人立ちしていく過程についてお話ししたいと思います。

どうぞ、次回もお付き合いください。



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