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Textile Industry Column糸偏コラム:自由な視点
私の回顧録

2026.01.31:第46回 私の回顧録

仕入れ編
〜プリント捺染工場〜

みなさん、こんにちは。
前回は、はじめて尾州の機屋を訪れたときの話を書きました。 織機の音、鋸屋根の工場、職人さんの背中。 あの体験は、今振り返っても「原体験」と呼べる出来事だったと感じています。

今回は、その流れの中で訪れた、**捺染場(プリント工場)**のお話です。 舞台は京都。 織りとは工程の異なる、プリント加工の現場を、はじめて間近で見ることになりました。

プリント工場

◾️ 京都という土地が持つ、染織の記憶

京都といえば、日本の染織文化の中心地のひとつです。 友禅に代表されるように、染めの技術が長い時間をかけて積み重ねられてきた土地でもあります。

そんな京都には、 染色整理を行う工場とは別に、プリント(捺染)に特化した工場が存在します。

今回訪れたのは、 その中でも**手捺染(てなせん)**という技法を用いてプリント加工を行う捺染場でした。

プリントと聞くと、 機械的で均一な加工をイメージされる方も多いかもしれません。 しかし、手捺染の現場は、そのイメージとはまったく異なるものでした。


◾️ 手捺染というプリント技法

手捺染とは、版(スクリーン)を使い、 職人の手で一色ずつ染料を刷り重ねていくプリント技法です。

現在ではオートスクリーンと呼ばれる自動プリント機も普及していますが、 細やかな柄表現や、にじみの少ない輪郭、 そして独特の風合いを求める場合、今も手捺染が選ばれています。

この捺染場では、生地は46メートル単位で管理されていました。 この長さを「1疋(ひき)」と呼びます。 1疋は2反分に相当し、実際の作業では半分にカットして1反ずつプリントされます。

最初の工程が「地張り(じばり)」です。 生地を台に貼り付け、繊維の目を正確に揃える作業。 プリント加工において、仕上がりを左右する極めて重要な工程です。

ここで少しでもズレが生じると、 後工程ですべてが狂ってしまいます。

静かな緊張感の中、 職人さんは黙々と、生地と向き合っていました。

工程

◾️ 数字で見る、手捺染の現実

工程自体は、とてもシンプルです。

1 生地を台にセットする
2 版を置く
3 染料を流し、スキージ(ヘラ)で押し込む
4 乾燥させ、次の色へ進む

しかし、問題は色数です。

例えば8色使いのプリント柄の場合、 1色につき23メートルの生地を36回刷ります。 それを8色分。 つまり、合計288回の手作業が必要になります。

最低ロットが4反(92メートル)だとすると、 単純計算で2304回

数字にすると、一気に現実味が増します。 「手がかかっている」という言葉では、到底足りません。


◾️ 過酷な作業環境の中で

捺染台にはボイラーが組み込まれており、 プリント後の乾燥を早める工夫がされています。

その分、工場内は常に高温。 特に夏場は、息をするだけで体力を消耗するような環境でした。

汗をかきながら、 それでも手を止めず、 版の位置を確認し、色の出方を見極める。

その姿を見ていると、 「この1メートルのプリント生地を作るのに、 どれだけの時間と手間がいるのだろう」

そんなことを考えずにはいられませんでした。

過酷な環境

◾️ 「現場を見ると、値段交渉ができなくなる」

このとき、以前に仕入れの責任者から言われた言葉を思い出しました。

「生産現場を見に行くと、値段交渉がしにくくなるぞ」

確かに、その通りだと思います。 この捺染場を見たあとで、 「もう少し安くなりませんか」と言うのは、簡単なことではありません。

けれど、私はこの経験をして良かったと、今でも思っています。


◾️ 仕入れの仕事に生まれた、わずかな変化

現場を見ることで、 価格の背景にあるものが、少しだけ見えるようになりました。

単に「高い」「安い」ではなく、
・ なぜこの価格なのか
・ どこに価値があるのか
それを自分の言葉で説明できるかどうか。
仕入れの仕事にとって、それはとても大切なことだと感じたのです。

この京都の捺染場での体験は、 私の中で、仕入れという仕事の軸を、 ほんの少しだけ動かしました。

大きな変化ではありません。 ただ、確実に残る感覚でした。


◾️ プリント生地は「柄」だけではない

洋服において、プリント生地は どうしても柄やデザインが先に語られがちです。

けれど実際には、
・ ベースとなる生地の種類
・ 使用する染料
・ プリント(捺染)の方法
それらが、着心地や印象に大きく影響します。

その背景を知っているかどうかで、 生地を見る目は、確実に変わります。

このときの経験が、 その後の仕入れに、静かに影響していったことは間違いありません。

染料

◾️ 現場を知る、ということ

この京都での訪問をきっかけに、 私はできるだけ生産現場に足を運ぶようになりました。

すべてを理解することはできません。 けれど、知ろうとする姿勢を持つことはできる。

それだけで、取引先との関係性も、 自分自身の仕事への向き合い方も、 少しずつ変わっていきました。


◾️ 次へつながる記憶として

尾州で見た「織りの現場」。 京都で触れた「プリントの現場」。

この二つは、今も私の中で、一本の線としてつながっています。

そして次回は、 シルクの産地・米沢を訪れたときの話を書こうと思います。

また違った空気、また違った技術。 その現場で、何を感じたのか。

ぜひ、次回もお付き合いください。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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