2026.01.16:第31回 私の回顧録
営業時代
〜北海道出張記 営業のハプニング〜
営業の現場には、想定外がつきもの
みなさん、こんにちは。
前回のコラムでは、営業時代に出会った印象的なお得意様についてお話ししました。営業という仕事は、人との出会いによって支えられている——そんなことを改めて感じる機会だったように思います。
ただ、営業の日々を振り返ると、強く記憶に残っているのは「人」だけではありません。
その人に会いに行くまでの道のり、移動の時間、そして現場で起きた予想外の出来事。そうした一つひとつもまた、営業という仕事を形づくっていた大切な要素でした。
今回は、そんな営業の現場で経験したハプニングの中から、特に印象に残っている北海道出張での出来事についてお話ししたいと思います。
◾️ 北海道という、別次元の営業エリア
私が担当していた営業エリアの中で、最も距離があり、スケール感がまったく違っていたのが北海道でした。
中でも担当していたのは道北エリア。
札幌周辺ではなく、旭川、名寄、稚内、オホーツク沿岸といった地域が中心です。地図で見ると広いとは分かっていても、実際に車で走ると、その広さは想像以上でした。
出張の時期は、7月後半からお盆前までの約2週間。
本州では連日うだるような暑さが続く頃ですが、北海道に入ると空気が少し軽く感じられ、気持ちがリセットされるような感覚がありました。
◾️ 群馬から始まる、果てしない移動
北海道出張は、群馬の自宅を出るところから始まります。
まだ薄暗い時間帯に荷物を車へ積み込み、まずは青森県・八戸港を目指します。ひたすら高速道路と一般道を走り続け、八戸に到着。そこからフェリーに乗り、苫小牧へ向かいます。
フェリー乗り込むと、「いよいよ北海道だな」と昂りを感じました。
苫小牧に着いても、まだ目的地ではありません。
そこからさらに100km以上走り、ようやく最初のお客様のもとへ向かいます。
家を出てから気がつけば、約28時間。
16日間の総走行距離は約5,500km、1日平均で350km弱。営業というより、長距離運転が仕事のように感じることもありました。
◾️ 道北の道で起きた、忘れられない光景
これだけの距離を走っていれば、何も起きない方が不思議です。
ある日、旭川からオホーツク海側へ向かう途中、大雪山の近くを走っていました。雄大な山並みが続き、思わず景色に目を奪われそうになる道中で、突然、前を走っていた車が大きくバランスを崩しました。
次の瞬間、その車は道路を外れ、田んぼの中へ。
思わずブレーキを踏み、車を停めて状況を確認します。
原因を探ると、道路の中央に黒い物体がありました。
それは、鹿でした。
前の車は鹿と衝突し、その拍子にハンドル操作を誤ってしまったのです。
◾️ 「鹿は日常」——北海道ならではの感覚
この出来事を後日お客様に話すと、返ってきた言葉は意外なものでした。
「それ、北海道ではよくある話だよ」
中には、「知り合いで、1日に3回鹿にぶつかった人もいる」という話までありました。特に朝夕や夜間は、車のライトに向かって鹿が飛び出してくることが多いそうです。
この話を聞いてから、私の中で
・ 鹿=自然の象徴ではなく、
・ 鹿=最大級の注意対象
という意識がはっきりと刻まれました。
それ以降、北海道での運転では、常に道路脇にも神経を配り、スピードを控えめにするようになりました。
◾️ 「近いですよ」に潜む、北海道マジック
別の日、お客様のご自宅を訪問した際、
「別のお客様にも生地を見てほしい」
と頼まれました。
「近いから、私が先導しますよ」
そう言われ、軽自動車の後をついて走り出しました。
◾️ 北海道基準の“近さ”
山道に入り、軽自動車は軽快にスピードを上げていきます。
時速は70km近く。私は必死についていきました。
「10kmくらいだろう」
そう思っていた距離は、なかなか終わりません。
15分、20分と走っても到着せず、気づけば1時間以上。
ようやく目的地に着いたとき、走行距離を確認すると55km。
北海道では、これが「近い」なのだと、身をもって知りました。
◾️ 急ぎすぎた先にあった失敗
長距離移動が続く中、次のアポイントに間に合わせようと、少し気持ちが焦っていた日がありました。
道路状況も良く、ついスピードが出てしまったその瞬間。
目の前に人影が現れます。
急ブレーキ。
——お巡りさんでした。
◾️ 営業人生で数少ない、苦い経験
事情を説明しましたが、当然、通用しません。
観光シーズン真っ只中の北海道。取り締まりも厳しい時期でした。
切符を切られ、予定より遅れて到着したお客様に事情を話すと、
「この時期は観光客も多いからね」
と、苦笑いしながら教えてくれました。
この出来事以来、私は北海道では
「絶対に先頭を走らない」
という自分なりのルールを作りました。
◾️ 日本最北端・宗谷岬
出張の終盤、宗谷岬を訪れる機会がありました。
日本最北端。
その言葉だけで、どこか特別な気持ちになります。
そこには、日本最北端の公衆電話がありました。特に用事があったわけではありませんが、思わず妻に電話をかけたのを覚えています。
20年前、冬の宗谷岬を訪れた記憶がよみがえりました。吹雪の中、寒さに耐えながら立っていたあの場所。今回は、穏やかな夏の宗谷岬でした。
◾️ 海の色が語る、北の大地
宗谷岬から見る海は、太平洋の青とは違い、どこかグレーがかった色をしていました。
「北の海だな」
そう感じさせる、重みのある景色。
北海道という土地の厳しさと広さを、静かに物語っているようでした。
◾️ 稚内の夜に感じた、異国の気配
最終日は稚内に宿泊しました。
食事ができる場所が少なく、南稚内まで足を延ばします。
そこでは、ロシア人と思われる方々が多く、大きな声で会話をしていました。日本にいながら、どこか異国にいるような不思議な感覚を覚えました。
国境に近い街ならではの空気感を、肌で感じた瞬間でした。
◾️ ハプニングの先に残ったもの
こうして振り返ると、北海道出張はハプニングの連続でした。
ですが、「大変だった」というよりも、「濃い時間だった」という印象の方が強く残っています。
生地のキャラバンは、人と向き合う仕事でもあります。そして、その人に会いに行くまでの道のりや出来事も含めて、営業なのだと、北海道での経験が教えてくれました。
◾️ 次回予告
次回は、この北海道出張の帰路にあったエピソードについてお話しします。
長い旅の終わりに、どんなことを考え、何を感じたのか。
ぜひ、引き続きお付き合いいただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。